面白い視点です。
まず言葉としては、
「柔よく剛を制す」
で、柔道の創始者である 嘉納治五郎 が重視した考え方として有名です。
ただし、この言葉自体は嘉納治五郎のオリジナルというより、中国古典にも源流がある思想です。
「柔よく剛を制す」の本質
一般には
弱者が強者に勝つ
という意味で理解されますが、柔道的には少し違います。
本来は
力と力を正面衝突させない
という意味です。
例えば、
- 相手が前に出る
- その力を利用する
- バランスを崩す
という考え方です。
つまり
「弱い力で勝つ」
ではなく
「相手の力を活用する」
です。
企業でいう「剛」とは何か
大企業やメーカーでいう剛は、
- 資本
- 人員
- ブランド
- 生産能力
- 販売網
- 品質管理
です。
例えば
Toyota Motor Corporation
なら、
- 巨大な工場
- 世界的サプライチェーン
- 莫大な資金
を持っています。
これはまさに「剛」です。
なぜ大企業は柔が苦手なのか
組織論では有名な話です。
大企業は成功するほど、
剛が強化される
からです。
例えば製造業。
過去20年、
- 品質向上
- コスト削減
- 生産効率
で勝ってきた。
すると組織は
「そのやり方を繰り返す」
ようになります。
これを経営学では
Exploitation
(既存能力の活用)
と呼びます。
一方で柔は
- 実験
- 試行錯誤
- 小規模挑戦
- 失敗許容
です。
これは
Exploration
(新しい探索)
です。
業界話:コダックの有名な失敗
写真フィルム最大手だった
Eastman Kodak Company
は、
実はデジタルカメラ技術をかなり早く開発していました。
しかし、
フィルム事業という巨大な剛があった。
結果として、
自分たちの成功モデルを壊せなかった
と言われています。
柔が不足した例として経営学で頻繁に登場します。
業界話:トヨタは実は柔も重視している
外から見ると巨大な剛ですが、
トヨタ生産方式は意外と柔の思想があります。
有名なのは
- カイゼン
- 現地現物
- なぜを5回繰り返す
です。
現場作業員が
「この工程おかしい」
と言える仕組みを持っています。
これは
巨大組織の中に柔を埋め込む
試みとも言えます。
IT業界は逆に柔が強すぎる
スタートアップでは逆の問題があります。
柔ばかり。
例えば
- 方針変更
- ピボット
- 新サービス
を繰り返す。
しかし
- 品質管理
- 文書化
- 保守体制
が弱い。
結果、
柔はあるが剛がない
状態になります。
エンジニア界隈では
「スタートアップは速いが脆い」
と言われることがあります。
なぜ最近の大企業は柔不足に見えるのか
実はAI時代になって理由が増えました。
昔
変化速度:年単位
だったものが
今
変化速度:月単位
です。
生成AIの例。
数か月で
- 新モデル
- 新ツール
- 新API
が出る。
すると
大企業の
- 稟議
- 承認
- 法務確認
が追いつかない。
結果として
スタートアップが柔で攻める。
大企業が剛で守る。
という構図になりやすい。
実は最強なのは「柔と剛の往復」
柔道でもそうですが、
柔だけでは勝てません。
剛だけでも勝てません。
嘉納治五郎は
「精力善用」
という言葉も重視しました。
これは
力を最も有効に使う
という意味です。
企業で言うと、
- 普段は剛(品質、資金、組織)
- 必要時は柔(実験、変化、挑戦)
です。
近年よく評価される企業は、
巨大な基盤を持ちながら柔軟性も維持しています。
例えば
Microsoft
はかつて
- Windows中心
- 自社技術中心
という剛の企業でした。
しかし近年は
- クラウド
- オープンソース
- AI
へ大きく方向転換しました。
これは経営学的にはかなり「柔」の動きです。
まとめると、
「柔よく剛を制す」を現代企業に当てはめると、
剛=資本・組織・ブランド・生産力
柔=変化適応力・学習能力・実験精神
と考えられます。
そして現代の経営学では、
剛が強い企業が勝つのではなく、 剛を持ちながら柔を失わない企業が最も強い
という見方がかなり主流になっています。
面白いことに、これは100年以上前の嘉納治五郎の柔道思想と、AI時代の組織論が意外なところでつながっているとも言えます。
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