2025年11月18日火曜日

モジュラー楕円曲線とフェルマーの最終定理

 

モジュラー楕円曲線とフェルマーの最終定理

フェルマーの最終定理(Fermat's Last Theorem)は、17世紀にピエール・ド・フェルマーが提唱したもので、n > 2 に対する整数 a, b, c が a^n + b^n = c^n を満たすような正の整数解が存在しないという定理です。この定理は長年未解決でしたが、1995年にアンドリュー・ワイルズによって証明されました。この証明の鍵となるのが、「モジュラー楕円曲線」という概念です。

楕円曲線とは

楕円曲線は、y² = x³ + Ax + B のような形で定義される曲線で、有理数体 ℚ 上の楕円曲線は、数論的な性質を持ちます。モジュラー楕円曲線とは、この曲線がモジュラー形式(モジュラー群の下で不変な関数)と関連付けられるものを指します。具体的には、谷山-志村予想(Taniyama-Shimura conjecture)により、すべての有理数上の楕円曲線はモジュラーであると仮定されます。この予想は、楕円曲線とモジュラー形式を結びつけるもので、ワイルズの証明ではこの予想の特別な場合(セミステーブル楕円曲線に対するもの)が証明されました。

証明の流れ

ワイルズの証明は、背理法に基づいています。フェルマーの最終定理が偽であると仮定すると、n > 2 で a^n + b^n = c^n を満たす解が存在し、これからフレイ曲線(Frey curve)と呼ばれる特別な楕円曲線 E: y² = x(x - a^n)(x + b^n) が構築されます。この曲線はセミステーブルですが、ゲルハルト・フレイの指摘により、モジュラーではない性質を持つはずです。

次に、ケン・リベの定理(Ribet's theorem)により、このフレイ曲線がモジュラーでないことが示され、谷山-志村予想に矛盾を生じさせます。リベの定理は、フレイ曲線のガロア表現(Galois representation)がモジュラー形式から生じ得ないことを証明します。これにより、フェルマーの解が存在すれば非モジュラーなセミステーブル楕円曲線が存在することになり、矛盾です。

ワイルズは、この矛盾を解消するため、すべてのセミステーブル楕円曲線がモジュラーであることを証明しました。これには、ガロア表現の変形理論やヘッケ代数(Hecke algebra)を用いたリフティング定理(modularity lifting theorem)が用いられ、3と5の素数を使った「3-5スイッチ」などのテクニックが鍵となりました。1993年に発表された証明は、1994年にギャップが修正され、1995年に完成しました。

この証明は、数論の分野に大きな影響を与え、谷山-志村予想の完全証明(後のモジュラリティ定理)への道を開きました。詳細はワイルズの論文「Modular elliptic curves and Fermat's Last Theorem」を参照してください。

0 件のコメント: