ご提示いただいた動画「【静かに学ぶ現代政治思想】[6] 公共選択論①『国家の失敗』」は、現代の政治思想において非常に重要な**「公共選択論」**とその周辺理論を、5人の著名な思想家(ジェームズ・M・ブブキャナン、アンソニー・ダウンズ、マンサー・オルソン、ゴードン・タロック、ピエール・ロザンバロン、ヤン=ヴェルナー・ミュラー)を通して解説したものです。
動画の内容を要約しつつ、雑学や業界の背景を交えて詳しく解説します。
1. ジェームズ・M・ブキャナン:政治の「ロマン」を排す
ブキャナンは、政治家や官僚も「自分の利益を追求する普通の人間である」と喝破しました。これを**「ロマンなき政治」**と呼びます。
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解説: 従来、政治家は公共の利益のために働く「聖人」のように思われてきましたが、ブキャナンは「彼らも再選(票)や予算(権限)を最大化したい経済人だ」と考えました。これが「公共選択論」の出発点です。
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雑学・業界話: ブキャナンはこの功績で1986年にノーベル経済学賞を受賞しました。彼は「バージニア学派」の重鎮ですが、この理論は「小さな政府」を支持する保守派の理論的支柱となりました。しかし、実際には「官僚が私利私欲に走る」という前提は、日本の霞が関などでは「予算を増やすことこそが国益だ」という強い使命感と表裏一体になっていることも多く、一概に「悪意」とは言えない複雑さがあります。
2. アンソニー・ダウンズ:なぜ「似たような政策」ばかりになるのか
ダウンズは、有権者の「合理的な無関心」と、政党が中道に寄っていく仕組みを解明しました。
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解説: * 合理的無知: 自分が一生懸命政治を勉強しても、一票で結果が変わる確率は極めて低い。それなら、勉強せずに趣味に時間を使う方が「合理的」だという考え方です。 [07:53]
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中位投票者定理: 二大政党制では、右端や左端の票は放っておいても入るため、勝敗を決める「真ん中(中道)」の人たちの好みに政策を寄せていく結果、どの党も似た内容になります。 [09:09]
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雑学・業界話: 現代の選挙コンサルティングでは、この「中位投票者」をどう狙うかが基本中の基本です。しかし、SNS時代になり、中道よりも「過激な意見」の方が拡散されやすくなったため、最近はこの定理が通用しにくくなっているという議論も業界では盛んです。
3. マンサー・オルソン:集団が国家を滅ぼす?
オルソンは、特定の利益団体(業界団体や労働組合)が強くなりすぎると、国全体が停滞するという**「分配連合」**の理論を提唱しました。
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解説: * フリーライダー問題: 恩恵だけ受けて苦労(活動費の負担など)をしない「タダ乗り」が増えるため、大きな集団ほどまとまるのが難しくなります。 [13:52]
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分配連合: 結束力の強い小さな団体(特定の業界など)が政治家に圧力をかけ、自分たちだけに有利な補助金や規制を作らせることで、社会全体の成長が阻害されます。 [14:52]
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雑学・業界話: 「既得権益」という言葉が政治でよく使われますが、その正体を理論化したのがオルソンです。彼は「戦争などで一度団体がリセットされた国(戦後の日本やドイツ)の方が、経済成長が早い」という衝撃的な仮説(国家興亡論)も立てています。
4. ゴードン・タロック:無駄な公共事業の裏側
ブキャナンの相棒であるタロックは、政治における「無駄な競争」を分析しました。
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解説: * レントシーキング: 努力して新しい価値を生むのではなく、政府に働きかけて自分たちに有利なルール(特権=レント)を作らせようとする活動。そのロビー活動費用は社会的な浪費です。 [19:44]
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ログローリング(票の貸し借り): 「君の地元のダムに賛成するから、僕の地元の道路にも賛成してくれ」という議員同士の取引。これにより、単体では赤字の無駄な事業が次々と可決されます。 [21:09]
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雑学・業界話: タロックは非常に独創的なアイディアマンでしたが、ノーベル賞は受賞できませんでした。業界では「ブキャナンが受賞した時、タロックも一緒にもらうべきだった」という声が今でも根強くあります。
5. ロザンバロン & ミュラー:現代の民主主義とポピュリズム
動画の後半では、公共選択論を超えて、現代の民主主義が抱える危機について触れています。
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ロザンバロン: 選挙だけでなく、SNSやデモで権力を監視・批判する**「対抗民主主義」**の重要性を説きました。 [25:24]
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ヤン=ヴェルナー・ミュラー: ポピュリズムの本質を「エリート批判」ではなく**「自分たちだけが真の国民だ」と言い張る「反多元主義」**にあると定義しました。 [31:05]
業界裏話:なぜ今「公共選択論」なのか?
政治学や経済学の世界では、かつて「市場がダメなら政府が直せばいい」と考えられていました。しかし、実際には政府も失敗します。これを「国家の失敗」と呼び、その原因を数式やロジックで解き明かしたのがこの動画に登場する面々です。
最近では、SNSによるポピュリズムの加速や、特定の業界への巨額の補助金問題など、まさに彼らが数十年前に予言したような現象が世界中で起きており、再びこの理論が見直されています。
この動画は、単なる暗記科目としての政治ではなく、**「なぜ政治はこうも思い通りにいかないのか」**というモヤモヤを論理的に整理してくれる一冊の教科書のような内容になっています。

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