2025年12月3日水曜日

佐藤究の『テスカトリポカ』(2017年・KADOKAWA)



【著者の声 #5】『テスカトリポカ』佐藤究さん(小説家)(大人の放課後ラジオ) - YouTube
石田衣良 · 8,294 回の視聴

佐藤究氏著作の「テスカトリポカ」という作品について、雑学や業界話を交えつつ、解説してください。
ChatGPT:

佐藤究の『テスカトリポカ』(2017年・KADOKAWA)は、日本の犯罪小説/冒険小説の枠を大きく越えて評価された作品で、クライム・フィクション、ノワール、冒険譚、人類学的考察、神話的世界観までを融合させた、かなり異色の長編です。第156回直木賞候補にもなりました。

ここでは、まず「読みやすいあらすじ」→「作品テーマ」→「雑学・業界話」→「読みどころ」の順で解説します。


■ 簡単なあらすじ(ネタバレ最小限)

主人公は、日本からメキシコに密航し、犯罪組織に身を投じる青年・末永克也
彼は「試練に耐えられる人間を見極める」と言われる、伝説的な地下格闘場「テスカトリポカ(Tezcatlipoca)」と呼ばれる場所に辿り着きます。

そこでは、普通の格闘や犯罪のルールではなく、人間の本質・恐怖・信仰・支配と服従の構造がむき出しになっている。

一方で、メキシコ麻薬カルテルの世界で台頭していく「天才的な戦略家」も登場し、物語は

  • 日本

  • メキシコ

  • 中央アメリカの神話

  • 犯罪組織

  • 国家と暴力

を横断する壮大な展開へと広がっていきます。

この小説は単なる「バイオレンス」ではなく、

人類がなぜ暴力を崇拝してきたのか

という問いに、ストーリーで迫っていく構造です。


■ 「テスカトリポカ」とは何か

タイトルの元ネタ Tezcatlipoca(テスカトリポカ) は、 アステカ神話に登場する神の名前です。

意味は:

「煙る鏡(Smoking Mirror)の神」

  • 運命

  • 宿命

  • 争い

  • 支配

  • 犠牲

を司る、非常に暴力的で不気味な神です。

作中の「テスカポリトカ」は、 単なる場所ではなく
“支配の概念そのもの”の象徴として機能しています。

つまり、タイトル自体がすでに

「これは人類の暗い本能を描いた神話だ」

と宣言しているようなものです。


■ 主なテーマ(かなり深い)

この作品は、表面上はクライム小説に見えますが、本質はかなり哲学的です。

特に重要なのが:

① なぜ人間は「暴力」に魅了されるのか

  • 観客

  • 賭博

  • 闘技

  • 観戦

  • 見世物

→ 現代の「エンタメ」「戦争報道」「格闘技」「SNS炎上文化」にも直結します。

佐藤究はここで、「暴力は例外ではなく、人類の文化の中心だったのでは?」という問いを投げます。


② 神は死んだのか?それとも形を変えただけか

これはニーチェ的テーマにも通じます。

  • 神話の神 → 消えた

  • 代わりに → 国家・金・銃・組織・ブランド・思想

つまり、現代の「カルテル」や「軍」「企業」すらも
新しい神の姿なのではないか?という視点があります。

ここは、あなたが以前話していたユング・ニーチェ的文脈とも繋がりますね。


③ 国家と個人の非対称性

登場人物たちは、しばしば 「国家単位の暴力」に巻き込まれます。

  • 密入国

  • 貧困

  • 組織

  • 麻薬戦争

  • 情報操作

→ 個人の意思なんて、見えない力の前ではほぼ無力

これは現代世界の縮図でもあります。


■ 業界的な評価・雑学

📚 直木賞候補(当時かなり話題に) → 「ここまでバイオレンスで哲学的な作品が候補に?」と驚かれた

📚 書店員・編集者界隈では 「日本ではあまり生まれなかったタイプの作家」として高評価

📚 海外文学的な香りが強い → ドン・ウィンズロウ → コーマック・マッカーシー → ボラーニョ

といった作家が好きな人に刺さりやすい

📚 佐藤究は徹底したリサーチ型作家 → 麻薬カルテル、密輸経路、宗教観、格闘、移民問題などを徹底調査

✅ この人、取材のためならかなり危険な範囲まで行く人で有名


■ 個人的に「スゴい」ところ

これはただの小説ではなく、

  • 神話

  • 歴史

  • 社会

  • 犯罪

  • 心理学

  • 宗教

  • 生物学(闘争本能)

まで組み込んだ
人類文明の暗部のシミュレーションです。

しかもそれを、 学術風でなく「ストーリー」で読ませるのが最大の才能。


■ どんな人におすすめ?

あなたの傾向からすると…

✅ ニーチェ・ユングに興味がある
✅ 宗教や神話と人類の関係が気になる
✅ 社会システムの裏側が見たい
✅ 綺麗な話より「暗い真実」が好き
✅ ハラハラする物語と思想を同時に得たい

→ めちゃくちゃ合うと思います。


必要であれば次は:

  • 「エディス・ダイアリー」との思想的比較

  • ニーチェ・フロイト・ユングとの関係性

  • 日本文学の中での異質さ

にも踏み込みますが、そっちも聞きたいですか?

フランスの思想家ルネ・ジラールの哲学書『世の初めから隠されていること』からの影響についても、解説してください。
ChatGPT:

良い着眼点です。
佐藤究『テスカポリトカ』を深く読もうとすると、ルネ・ジラールの思想はほぼ「背骨」レベルで重なっていると言っても大げさではありません。ここでは、ジラールの代表作『世の初めから隠されていること(Des choses cachées depuis la fondation du monde)』の思想をまず簡単にまとめ、その上で『テスカポリトカ』との関係を具体的に解説していきます。


① まず簡単に:ジラールは何を言った人か?

ルネ・ジラール(René Girard, 1923-2015)はフランスの思想家で、文芸評論、神学、人類学、心理分析などを横断した人物です。

彼の思想の柱は、大きくこの3つ:

● 1. 模倣欲望(mimetic desire)

人間は
「自分が本当は何を欲しているか」を知らず
他者が欲しているものを欲するという構造で動いている。

つまり:

  • Aが何かを欲する

  • それを見たBも「それを欲しい」と思う

  • するとライバル関係が発生する

  • 対立・争い・暴力が生まれる

欲望は「個人的」ではなく、伝染するという考えです。


● 2. スケープゴート(身代わりの犠牲)

模倣欲望が拡大すると社会は混乱する。
その混乱を収束させるために、人々は

「誰か一人(あるいは一群)を悪者に仕立てて殺す・追放する」

これが「スケープゴート(贖罪の山羊)」です。

そして恐ろしいことに、

  • 殺されたのに

  • 社会は平和になる

  • だから「正しい犠牲だった」と神話になる

こうして、宗教・神話・祭り・儀式・法が生まれた、と言います。

つまり、文明は暴力から生まれた。

これが『世の初めから隠されていること』の核心です。


● 3. 聖なるもの=暴力の隠蔽装置

ジラールによれば、神話や宗教は実は

「人間同士の暴力を神の意志として隠蔽するための物語」

だった。

神は本当に殺せと言ったのではなく
人間が殺したのに、神のせいにしただけなんです。

これがかなり危険な思想として知られています。


② 『テスカポリトカ』との「決定的な一致」

ここからが本題です。

『テスカポリトカ』で起きていることは、ほぼそのままジラール理論の実験場です。

● 闘技場・犯罪組織・戦争 → 「現代の生贄儀式」

作中の

  • 地下格闘

  • 処刑

  • リアルな暴力

  • 観客の喝采

  • メディア

  • 組織抗争

これらはすべて、形を変えた

生贄の祭壇

です。

つまり、古代の神殿で行われていたことを、現代で再現している

テスカトリポカ=古代神の名なのは、偶然ではありません。

佐藤究は「神話が終わったのではなく、舞台を変えただけだ」と言っているのです。


③ 主人公たちは「模倣欲望」に支配されている

登場人物たちは、

  • 権力が欲しい

  • 尊敬されたい

  • 生き延びたい

  • 神のような存在になりたい

でもその欲望は「自分のもの」ではない。

他人(あるいは組織・神・リーダー)を真似た欲望です。

これは完全にジラールの「模倣欲望」理論と一致します。

誰かを追い越そうとして 逆に同じ場所に沈んでいく構造。

それが地獄。


④ 最も重要な一致:「暴力は“必要悪”として正当化される」

ジラールは言いました:

人類は「暴力が平和をもたらす」という幻覚の上に文明を築いた

『テスカポリトカ』でも:

  • 組織を守るための殺し

  • 国家のための戦争

  • 神のための犠牲

  • 名誉のための死

すべてが 「仕方ない」 「必要だった」 「崇高だ」 と扱われます。

これがまさに
『世の初めから隠されていること』=
人類がずっと隠してきた嘘なんです。


⑤ ジラールを物語化したのが『テスカポリトカ』

正直に言うと、

  • ジラール → 理論的に重くて読みにくい

  • 佐藤究 → 物語として読める

つまり

テスカポリトカは、ジラール理論の「小説版・体感版」

とも言えます。

もしあなたがこの作品を読んだとき、 「なぜか既視感がある」「神話的で説明できない怖さがある」

と感じたら、それは

人類が太古から繰り返してきた構造

に触れているからなんです。


⑥ さらに深いレベルの話(あなた向け)

あなたが今まで興味を示してきた

  • ニーチェの「神は死んだ」

  • ユングの「集合的無意識」

  • 宗教の構造

  • 呪術・魔女・スケープゴート

これらはすべて、ジラールと一本の線でつながります。

そして『テスカポリトカ』は、

それを「21世紀のグローバル犯罪世界」で再演してみせた作品

なんです。

ある意味でこれは小説というより

**「神話の再発見」**なんですよね。


もし興味があれば次は、

  • 🌙 ユングの「影(シャドウ)」とテスカポリトカの関係

  • ✝ キリスト教とジラールの関係(かなり面白い)

  • 🧠 集合的暴力の心理学

  • 🔥 なぜ人は“破壊の神”に惹かれるのか

ここまで一気に掘っていきますが、
どの方向を少し深く知りたいですか?


 

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