三人姉妹
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あらすじ
登場人物
プローゾロフ家の三人姉妹
- オリガ(オーリガ、オルガとも。Ольга)…故プローゾロフ(プラゾーロフとも)大佐の長女。作中では「オーリャ」という愛称で呼ばれる。28歳(初登場時。以下同)。独身。教師。教育熱心な父親の方針で、他の兄弟姉妹同様、フランス語、ドイツ語、英語ができる。頭痛持ち。一家は大佐の赴任に伴ってモスクワから当地に引っ越して11年になる。1年前に父親が亡くなり、故郷モスクワに帰ることを夢見ている。
- マーシャ(Маша)…次女。21歳。中学校教師のフョードル・イリイッチ・クルイギンの妻で、作中では「マリーヤ」という愛称で呼ばれる。18歳で結婚したが、後悔している。ピアノが得意だがここ数年弾いていない。姫を救う騎士の物語であるプーシキンの『ルスランとリュドミラ』の冒頭の一節(楢の木に金の鎖でつながれた物知り猫のさわりの部分)を思わせぶりに時折口にする。
- イリーナ(Ирина)…三女。20歳。独身。仏・独・英語に加え、イタリア語もできる。モスクワに帰ることと真に愛する人と巡り合い結ばれることを夢見ている。電報局勤務ののち、役所に勤める。「昼に起きて2時間かけて身支度をするようなお嬢様でいるより働きたい」と言っていたが、実際勤め始めると、「詩的でない」仕事にうんざりし、モスクワなら望むような生活が待っていると妄想している。
その他の登場人物
- プローゾロフ・アンドレイ・セルゲーヴィチ(Прозоров Андрей Сергеевич)…三姉妹の兄弟(オリガの弟、マーシャ、イリーナの兄)。モスクワ大学の教授になることを願っていたが叶わず、地元娘のナターリヤ・イワーノヴナと結婚し、市長プロトポポフの秘書を務める。父親が亡くなってから太りはじめる。父親の望みだった学者になれず、役所勤めを恥じていたが、次第に議会の一員であることを自慢にしはじめ、姉妹を落胆させる。妻にも姉妹にも遠慮がち。
- ナターリヤ・イワーノヴナ(Наталья Ивановна)…アンドレイの妻。結婚前は恥ずかしがり屋の娘だったが、結婚後はプローゾロフ家の実権を握っていく。ブルジョア層(中産階級)の出で、フランス語を披露するのが好きな俗物的な人物として描かれる。夫の上司であるプロトポポフと不倫している。
- フョードル・イリイッチ・クルイギン(Фёдор Ильич Кулыгин)…中学校教師でマーシャの夫。母校の50年史を執筆したことが自慢の平凡で退屈な人物。ラテン語の格言をよく口にする。
- アレクサンドル・イグナーチェヴィチ・ヴェルシーニン(ビュシニンとも。Александр Игнатьевич Вершинин)…中佐。砲兵隊長。43歳。再婚した妻と義母、娘2人と暮らしている。妻はときどき自殺未遂を起こしている。モスクワ時代に三姉妹の父親と同じ部隊にいたことがあり、プローゾロフ家にも出入りし、当時「恋する少佐」と呼ばれていた。饒舌で哲学めいた話を好む。
- ニコライ・リヴォーヴィチ・トゥーゼンバフ(Николай Львович Тузенбах)…中尉。男爵。30前。醜男。上流階級ゆえ一度も働いたことがないが、愛するイリーナが労働を称賛するのを聞いて、軍を辞めて働くことを決意。ドイツ系の苗字を持つ。
- ワシーリー・ワシーリエヴィチ・ソリョーヌイ(サロヌイとも。Василий Васильевич Солёный,)…二等大尉。イリーナを愛しているが、彼女からは疎まれている。文学作品の一節を引用したセリフや人を苛立たせるようなことをしばしば言い、変人扱いされている。自分をレールモントフに似ていると言い、男爵に決闘を挑む。
- イワン・ロマーヌイチ・チェブトゥイキン(Иван Романович Чебутыкин)…軍医。60歳手前。一家の古い知り合いで、姉妹が幼いときから知っている。姉妹の亡き母を愛していた。「どのみち同じさ」が口癖。新聞記事を読むのが好きで雑学は豊富だが、実は本の一冊もまともに読んだことがない。医師としての技量も熱意も乏しいが、恩給がもらえるまでは続けるつもりでいる。
- アレクセイ・ペトローヴィチ・フェドーチク(Алексей Петрович Федотик)…少尉。
- ウラジーミル・カールロヴィチ・ローデ(Владимир Карлович Родэ)…少尉。
- フェラポント(Ферапонт)…老人。地方自治会の守衛。耳が遠い。
- アンフィーサ(Анфиса)…老婆。80歳。三姉妹の乳母として30年仕える使用人。
構成
第1幕
第2幕
第3幕
第4幕
はい、とても豪華で象徴的な組み合わせです。
「チェーホフ × スタニスラフスキー」は、20世紀演劇の基礎工事そのものと言ってもいい関係です。
スタニスラフスキー演出とは何か
一言で言えば、
「役を“演じる”のではなく、“生きる”ための演出・演技体系」
です。
① それ以前の演劇との決定的な違い
19世紀末までの舞台は、
-
大げさな身振り
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分かりやすい感情表現
-
観客に向けたセリフ回し
いわば「見せる芝居」でした。
スタニスラフスキーはこれを否定し、
-
なぜこの人物はここにいるのか
-
この沈黙は何を考えているのか
-
この言葉の裏にどんな感情があるのか
を俳優自身に徹底的に考えさせる方法を確立します。
これが後に
スタニスラフスキー・システム
(=メソッド演技の源流)になります。
なぜ『三人姉妹』と相性が抜群なのか
② チェーホフの戯曲は「何も起きない」
チェーホフ作品の特徴は、
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決闘や殺人は舞台外
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人生の転機も淡々と進む
-
重要なのは「言わないこと」「沈黙」
『三人姉妹』も、
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モスクワに行きたい → 行けない
-
愛したい → 満たされない
-
意味を求める → 見つからない
という内面の摩耗が主題です。
👉 これを旧来の大仰な芝居でやると全部ウソになる。
③ スタニスラフスキー演出が活きる点
スタニスラフスキーは、
-
セリフの裏にある「行動(内的動機)」
-
無言の時間に流れる思考
-
人物同士の「空気の圧」
を舞台上で可視化しました。
だから『三人姉妹』では、
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「モスクワへ、モスクワへ!」が叫びではなく呪文になる
-
退屈な会話が人生の敗北感に変わる
-
幸せそうな日常が静かな地獄に見える
のです。
なぜ「非常に豪華」なのか
④ 作家と演出家が“同時代で共振”した奇跡
多くの名作は、
-
作者は死後に再評価
-
演出家が後世で解釈
という形ですが、
-
チェーホフ:生きている
-
スタニスラフスキー:同時代
-
モスクワ芸術座:実験場として機能
という奇跡的な三点セットが揃いました。
しかも、
-
チェーホフは自分の戯曲を「喜劇」と言い
-
スタニスラフスキーは「悲劇的リアリズム」と演出
👉 この緊張関係が、作品を一段深いものにしています。
⑤ 演劇史的には「ビートルズ×ジョージ・マーティン」
業界的なたとえをすると、
-
チェーホフ=革新的な作曲家
-
スタニスラフスキー=音を立体化したプロデューサー
どちらか一方だけでは、 『三人姉妹』は教養ある戯曲で終わっていた可能性が高い。
両者が組んだからこそ、
-
20世紀リアリズム演劇の標準
-
映画・テレビ演技の原型
-
現代人の「満たされなさ」の雛形
になりました。
余談:なぜ今でも上演され続けるのか
『三人姉妹』は、
-
地方で燻る知識人
-
仕事に意味を見いだせない人
-
「本当の人生は別にある」と思い続ける人
を描いています。
これは、
-
IT業界の地方配属
-
東京/海外への幻想
-
「やりたい仕事」の神話
にもそのまま当てはまります。
だから、
**スタニスラフスキー的リアリズムでやると、
現代劇として“刺さる”**のです。
まとめ
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スタニスラフスキー演出=内面を生きる演出
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『三人姉妹』=沈黙と未達のドラマ
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両者の結合=演劇史の黄金配合
👉 非常に豪華どころか、演劇史の基礎工事レベルの組み合わせです。
もしよければ次は、
「なぜチェーホフは“希望のない作品”を書いたのか」
「なぜ観客は救われる気がするのか」
も掘り下げられますよ。
チェーホフの『三人姉妹』と、ロシア演劇の巨匠コンスタンチン・スタニスラフスキーの組み合わせは、演劇史上において**「最も幸福で、かつ最も重要」**と言われるほど豪華で画期的な出会いでした。
なぜこの組み合わせがそれほど特別なのか、その理由をいくつかのポイントで解説します。
1. 「近代演劇」の誕生
当時の演劇は、大げさな身振りや誇張されたセリフ回しが主流でした。しかし、チェーホフが描いたのは「何も起きない日常」の中に潜む絶望や希望です。 スタニスラフスキーはこの繊細なニュアンスを表現するために、俳優が役の感情を内面から体験する**「スタニスラフスキー・システム」**を確立させました。
2. 演出による「空気感」の創造
スタニスラフスキーは、セリフだけでなく**「音」や「沈黙」**を駆使して、ロシアの田舎町の閉塞感を表現しました。
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遠くで鳴る時計の音
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風の音
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人々の話し声の重なり これらによって、観客はまるでプローゾロフ家の居間に一緒にいるかのような没入感を味わったのです。
3. モスクワ芸術座のシンボル
チェーホフとスタニスラフスキー(モスクワ芸術座)の成功は凄まじく、今でもモスクワ芸術座の紋章には、チェーホフの代表作にちなんだ**「カモメ」**が描かれています。 『三人姉妹』もまた、彼らの共同作業によって「文学」が「生きた舞台」へと昇華された記念碑的な作品となりました。
補足:運命的なエピソード
質問にある通り、この初演で次女マーシャを演じたオリガ・クニッペルとチェーホフが結婚したことも、この作品をめぐる最も有名なエピソードの一つです。作者、演出家、そして看板女優が一体となって作り上げた世界だったと言えますね。
さらなる深掘り
もしご興味があれば、以下の点についても詳しくお話しできます:
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スタニスラフスキー・システムが、現代のハリウッド映画(メソッド演技法)にどう影響を与えたか
-
他の四大戯曲(『かもめ』や『桜の園』)における二人の協力関係
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