2025年12月29日月曜日

精神科医リヒャルト・フォン・クラフト=エビングの『性的精神病理』について

精神科医リヒャルト・フォン・クラフト=エビングの『性的精神病理』についても雑学や業界話を交えながら、解説してください。

では、少し知的に、しかし距離感を保ちながら解説しますね。
**クラフト=エビング『性的精神病理(Psychopathia Sexualis)』**は、
精神医学・法医学・文化史の交差点にある、かなり“危うくも重要”な本です。


① まず誰か:クラフト=エビングとは

リヒャルト・フォン・クラフト=エビング
(1840–1902/オーストリア)

  • 精神科医・神経学者

  • 法医学(裁判と精神鑑定)の専門家

  • 当時の最先端「精神病理学」を代表する人物

👉 重要なのは、
彼は猟奇趣味の人ではなく、国家・裁判・医療の側の人間だったという点です。


② 『性的精神病理』とは何か

1886年初版。
正式タイトルは
『Psychopathia Sexualis(性的精神病理)』

内容を一言で言うと:

「性に関わる逸脱・嗜好・行動を、病理として分類した巨大なカタログ」

  • サディズム

  • マゾヒズム

  • フェティシズム

  • 同性愛(当時は病理扱い)

  • 倒錯(perversion)とされた行為

などが、症例付きで大量に列挙されます。


③ 雑学①:なぜラテン語で書かれたのか

この本、わざと難解なラテン語で書かれています。

理由はシンプルで生々しい:

  • 一般人に読ませたくなかった

  • 「猥褻本」扱いされるのを避けたかった

  • 医師・法曹だけが読む前提

👉 つまり
エロを隠すための学術語

しかし皮肉なことに、
逆に「禁書的な魅力」を持ってしまいます。


④ 雑学②:「サディズム」「マゾヒズム」を作った人

この本で、クラフト=エビングは:

  • サディズム(サド侯爵から)

  • マゾヒズム(マゾッホから)

という言葉を医学用語として定義しました。

つまりあなたが昨日聞いていた言葉は、
ここが原点です。


⑤ 業界話①:精神医学の“分類病”

当時の精神医学は、

  • 見つける

  • 分類する

  • 名前をつける

博物学的医学の時代。

🧠 今で言えば:

DSM(精神疾患診断マニュアル)の
かなり粗く、価値観ベタ塗りの前身

クラフト=エビングは
「治す」より
「分ける」人でした。


⑥ 業界話②:実は“擁護者”でもあった

誤解されがちですが、彼は単なる弾圧者ではありません。

例えば同性愛について:

  • 「生得的で、本人の責任ではない」

  • 「犯罪として裁くべきではない」

という主張を、
法廷向けに論じていた

👉 病理化はしたが、
処罰軽減のために病理という言語を使った側面もあります。

これは当時としてはかなり進歩的。


⑦ 危険な点:価値観の混入

一方で、現代から見ると問題点は明確です。

  • 性=生殖が正義

  • それ以外は「退化」「異常」

  • 女性は受動的であるべき、という前提

👉 つまり
科学と道徳が分離できていない

これが後に、

  • 優生思想

  • 性的少数者差別 に繋がる下地にもなりました。


⑧ フロイトとの関係(裏話)

若き日のフロイトは、この本を熟読しています。

  • 性を“抑圧と無意識”の問題に移行させたのがフロイト

  • 性を“分類と病理”で止めたのがクラフト=エビング

👉 精神医学は
ここでリスト化の学問から、物語化の学問へ分岐します。


⑨ 現代から見た評価

現在の精神医学では:

  • 『性的精神病理』は学術史的資料

  • 臨床的正しさはほぼ否定

  • しかし「言葉を作った功績」は巨大

🎬 映画・文学・心理描写では
いまだにこの本の影が見えます。


⑩ まとめ(あなた向けに一言)

あなたがこれまで聞いてきた

  • サディズム/マゾヒズム

  • 危険な言葉

  • 性と権力

  • 病理と社会

これらの源流の一つが、この本です。

そして大事なのは:

クラフト=エビングは
「人を理解したかった」が、
「言葉が人を縛る危険」までは
見切れなかった。

ここに、
あなたが最近考えているテーマとも
深く重なる部分があります。


もし次に進むなら:

  • フーコー『性の歴史』(権力の視点)

  • フロイトとの決定的分岐

  • なぜ“分類したがる学問”は危険なのか

このあたりも、かなり面白く繋がりますよ。

フーコー『性の歴史』(権力の視点) フロイトとの決定的分岐 なぜ“分類したがる学問”は危険なのか       ーーーーー     についても解説してください。

とても良い並べ方です。
この三点は実は 一本の線 でつながっています。
少し長くなりますが、「雑学+業界話+思想史の核心」という形で解説します。


① フーコー『性の歴史』

――「性は抑圧された」のではなく、「語らされてきた」

● 一般的な誤解

よくある理解:

近代社会は性を抑圧してきた
→ フロイトはそれを解放した

フーコーはこれを 真っ向から否定 します。


● フーコーの逆転発想

フーコーの主張はこうです:

近代社会は
性を沈黙させたのではなく、
無限に語らせ、記録し、分類してきた

  • 医師に語らせる

  • 神父に告白させる

  • 教師が観察する

  • 親が管理する

  • 国家が統計を取る

👉 これを彼は
「告白の装置」 と呼びました。


● 雑学:性は「知識」になった瞬間に権力になる

性が

  • 秘密 → 罪

  • 罪 → 病理

  • 病理 → 統計・分類

と変換された瞬間、
国家・専門家が介入できる領域になります。

フーコー的に言えば:

知ること=支配すること


② フロイトとの決定的分岐

――「内面を掘るか」「構造を疑うか」

● 共通点

  • 性が重要だと見抜いた

  • 近代社会の偽善を感じていた

しかし、方向が違いました。


● フロイトの立場

フロイトはこう考えます:

性は抑圧され、
無意識に押し込められ、
症状として現れる

だから彼は:

  • 個人の内面を掘る

  • 欲望の物語を語らせる

  • 治療という形を取る

👉 治すために語らせる


● フーコーの立場

フーコーはこう言います:

なぜ「語らせる」こと自体が
正しいと思われているのか?

  • 語らせる装置そのものを疑う

  • 誰が得をするのかを見る

  • 医師や学者の位置を疑う

👉 語らせること自体が権力


● 業界話:精神医療の現場感覚

臨床ではこの二つは今も緊張関係にあります。

  • フロイト的:
    「話せば癒える」

  • フーコー的:
    「話させすぎるのは暴力では?」

どちらも正しく、どちらも危険。


③ なぜ「分類したがる学問」は危険なのか

――便利さと暴力はセット

● 分類のメリット

  • 理解が早い

  • 共有しやすい

  • 対処しやすい

  • 制度に落とし込める

医学・教育・行政に不可欠です。


● しかし危険はここから

分類には必ず:

  • 正常/異常

  • 標準/逸脱

  • 治療対象/対象外

という線引きが生まれます。

👉 線を引いた瞬間、
「外側」が生まれる


● フーコー的に言えば

分類とは:

人を助けるための地図であり、
同時に檻(おり)でもある


● 雑学:DSMの業界裏話

精神医学の診断基準(DSM)は:

  • 改訂ごとに病名が増減

  • 社会的要請で変わる

  • 保険制度と強く連動

👉 病気は
発見されるだけでなく、作られる


④ クラフト=エビング → フロイト → フーコーの一本線

整理すると:

  1. クラフト=エビング
    性を「分類」した

  2. フロイト
    性を「物語」にした

  3. フーコー
    性を「権力装置」として疑った

進歩ではなく、
視点のスライドです。


⑤ あなたの最近のテーマとの接点

あなたが関心を持っている:

  • 言葉の危険性

  • ラベルが人を縛る感覚

  • 声・評価・分類への警戒

これはまさに
フーコー的感覚です。

「これは理解か?
それとも管理か?」

この問いを持てること自体が、
分類の暴力から一歩距離を取れています。


⑥ まとめ(短く)

  • フーコー:
    性は抑圧されていない、管理されてきた

  • フロイト:
    内面を救おうとしたが、装置を疑わなかった

  • 分類:
    助けにもなるが、人を閉じ込める

最後にフーコー風に言えば:

問題は
「あなたは何者か?」ではなく
「誰が、それを決めているのか?」

とても良いテーマを掘っています。
また続けましょう。

0 件のコメント: