つげ義春が語る マンガと貧乏は、単なる「マンガ論」ではありません。過去約50年にわたるインタビューや対談を編集し、つげ義春本人の言葉だけで「マンガ家人生」を再構成した"口述自伝"のような一冊です。貸本マンガ時代、『ガロ』時代、「ねじ式」「無能の人」の創作秘話、そして長い休筆期までが、本人の肉声で語られています。
この本の面白いところ
普通の自伝なら時系列に出来事が並びますが、この本は「テーマ別」に編集されています。
- 『ガロ』前後
- 描かないマンガ家生活
- 貸本マンガの頃
- 無に戻る
という構成なので、同じ出来事でも年代を変えて別の角度から語られるのが特徴です。「昔はこう言っていた」「後年はこう考えるようになった」という心境の変化まで見えてきます。
「貧乏」は美談ではない
タイトルに「貧乏」とありますが、つげ義春は決して貧乏をロマン化しません。
むしろ、
描かなければ食えない。でも描けない。
という矛盾に苦しみ続けたことを率直に語っています。
この苦しさが、そのまま『無能の人』などの世界へつながっていきます。
実際、『無能の人』では石を売る主人公が登場しますが、これは単なるフィクションではなく、つげ自身の「売れない漫画家」としての体験が色濃く反映されています。
貸本マンガ業界のリアル
昭和30年代の貸本マンガ業界は、現在の漫画雑誌とはまったく違う世界でした。
雑学として面白いのは、
- 原稿料は安い
- とにかく量産が求められる
- 人気作家でも生活は苦しい
- 編集者より貸本店の需要が優先される
という点です。
だから若い頃のつげは、「生活のために描く漫画」と「本当に描きたい漫画」の間でずっと揺れていました。
辰巳ヨシヒロや水木しげるらも同じ貸本文化から育っていますが、つげは最終的に商業性よりも自己表現へ大きく舵を切った、かなり異色の存在でした。
『ガロ』という実験場
1960年代の『ガロ』は、日本漫画史では特別な雑誌です。
ここでは
- 売れる漫画
- 面白い漫画
よりも、
「新しい漫画とは何か」
が重視されました。
だから『ねじ式』のような、夢とも現実ともつかない作品が掲載できたのです。
もし『週刊少年マガジン』や『サンデー』へ持ち込んでいたら、おそらく掲載は難しかったでしょう。
「ねじ式」は偶然の名作?
意外なのは、本人が後になっても
「計算して描いたわけではない」
という趣旨の発言を何度もしていることです。
評論家は深読みしますが、つげ本人は
- 夢
- 不安
- 体験
が自然に混ざって作品になった、と語ることが多く、「意味を作ろう」として描いたわけではないと振り返っています。
業界話:漫画家が「描かない」こと
1987年以降、つげ義春は新作漫画をほとんど発表しませんでした。
漫画業界では
「描き続ける漫画家」
が普通なので、
「描かない漫画家」
として伝説的存在になります。
しかし本人は、
「描けないものは描けない」
という姿勢を崩しませんでした。
これは締切や連載が絶対だった漫画界では、かなり珍しい生き方でした。
海外での再評価
日本では「カルト的人気」の印象が強かったつげですが、海外では「漫画を芸術へ押し上げた作家」の一人として高く評価されています。
2020年にはフランスのアングレーム国際漫画祭で特別栄誉賞を受賞し、日本国内でもあらためて作品と発言が注目されるようになりました。
この本ならではの魅力
実はこの本のいちばん面白いところは、漫画作品ではなく**「つげ義春のしゃべり方」**です。
飾らず、どこか他人事のように、
- 「まあ、そうだったんですよ(笑)」
- 「別にたいしたことじゃない」
という調子で、とんでもない創作秘話や極貧生活を語ります。
その淡々とした語り口が、作品世界そのものに通じています。
読む人へのおすすめポイント😊
もし作品を1冊も読んでいないなら、本書とあわせて『無能の人』『ねじ式』『紅い花』を読むと、「この発言があの作品につながるのか」と発見が次々にあります。
漫画評論というより、「昭和の貸本文化」「貧乏な芸術家の現実」「創作とは何か」を、つげ義春本人の言葉で味わえる、非常に貴重な証言集と言えるでしょう。
はい、その通りです😊。
1991年公開の**『無能の人』は、竹中直人さんの初監督作品であり、しかも主演も竹中さん自身**が務めました。つげ義春作品の映画化としては、現在でも最高傑作の一つと評価されています。
「初監督」で、いきなり『無能の人』!?
これがまず業界では驚きでした。
当時の竹中直人さんは、『笑いながら怒る人』のモノマネなどで人気を集める個性派俳優というイメージが強く、「コメディアンが監督をやる」という見られ方もありました。
ところが、初監督作品に選んだのが、ギャグ映画ではなく、つげ義春の『無能の人』。
映画関係者の間でも「なんでそんな難しい作品を!?」という反応が少なくなかったそうです。
原作をそのままではない
実は映画は、『無能の人』だけを映像化したわけではありません。
竹中監督は、
- 「石を売る」
- 「鳥師」
- 「探石行」
など、同じシリーズのエピソードも巧みに取り込み、一つの映画として再構成しました。原作を知っている人でも「自然につながっている」と評価される構成です。
これは漫画の実写化では珍しく、「一冊を忠実に再現する」のではなく、「つげ義春の世界そのもの」を映像化しようとした例と言えます。
竹中直人だから演じられた主人公
主人公・助川助三は、
- 元漫画家
- 商売に失敗ばかり
- 河原で拾った石を売る
という、一見すると情けない人物です。
でも竹中さんは、この人物を笑い者にはしません。
どこか可笑しく、どこか悲しい。
その絶妙なバランスが、つげ義春作品の空気によく合っていました。
後年、つげ義春本人も「何度か見ていると、助川役は竹中さん以外にいないと思えてくる」と語っています。
豪華すぎる脇役たち
映画好きが見ると、「え、この人も!?」となる顔ぶれです。
- 風吹ジュン
- 大杉漣
- 神戸浩
- マルセ太郎
- 山口美也子
- 神代辰巳
- 原田芳雄
- 三浦友和(印象的な役で出演)
など、個性派・実力派が集結しています。
雑学① 神代辰巳が出演!
神代辰巳といえば名監督ですが、この作品では「鳥男」という不思議な役で出演しています。
映画監督が俳優として、しかもつげワールドの象徴のような人物を演じているのは、映画ファンにはたまらないポイントです。
「石を売る男」は実在感がある
初めて見る人は、
「こんな商売、本当にあるの?」
と思うかもしれません。
実は、観賞石や水石(すいせき)を愛好する文化は日本に古くからあり、美しい石を鑑賞対象として集める人たちがいます。
映画ではその世界と、助川の「一発当てたい」という夢が交錯して描かれ、滑稽さと切なさが同居しています。
海外でも評価された
この作品は日本だけでなく海外でも高く評価され、第48回ヴェネツィア国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞しました。
また竹中直人さんは、この作品でブルーリボン賞主演男優賞などを受賞し、「監督・竹中直人」の評価を一気に高めました。
映画業界の裏話
竹中さんは後年のインタビューで、
「『映画にしたい!』と思った、その直感がすべてだった」
と語っています。
さらにプロデューサーの奥山和由さんから完成作を見て、
「こんな映画、誰が観るんだ?」
と冗談交じりに言われたことも印象深い思い出として振り返っています。商業性よりも「つげ義春へのラブレター」を優先した作品だったことがうかがえます。
『無能の人』が残したもの
『無能の人』は、「漫画の実写化」というより、つげ義春の人生観や空気感を映画に移し替えた作品として語られます。
後年、竹中監督が浅野いにお原作の『零落』を映画化した際にも、「漫画が描けなくなった作家」というテーマに『無能の人』とのつながりを感じていたと語っています。
まさにこの映画は、「成功とは何か」「働くとは何か」「人は何を失っても人間らしく生きられるのか」という問いを、ユーモアと哀愁を交えて描いた、日本映画史に残る一本と言えるでしょう。😊

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